管理人の独創小説 『首長族の宴』

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(12)首長族のおもてなし

やがて夕食の時間になり、宿泊する家に戻った。ジーンは既に台所で何やら準備をしており、時折いい香りが漂ってきた。

「メシは問題なさそうだな。」

ほっとしたように浩之が言った。

例のブツがきっかけですっかり打ち解けた5人は、夕食の準備ができるまでの間、お互いの紹介やら、過去の海外旅行でのエピソードやらで話が尽きる事はなかった。

やがて「首の長い」娘二人が、出来上がった料理を居間に運んできた。

日本でよく見るような煮物用の大鍋に入ったタイ風ラーメンの他、タイ風の炒め物が3品ほどが食卓に並べられた。どれも料理らしい料理で、恐れていたゲテモノ料理がなかった事で、浩之は更に安心したようだった。

後から居間に入ってきたジーンの、「ドーゾ、オタベクダサーイ!」という片言の日本語で、皆の箸が動き出した。

ラーメンは日本の「サッポロ一番」のような麺で、少々延び気味でもあったが、他の料理も含め、全般的に味付けは良かった。料理がマトモだと不思議なもので、首長族の村にいるという感覚は薄れ、まるで友人宅に集まって鍋パーティーでもやっているかのような気分にさえなった清彦だった。

夕食の後、しばらくまどろんだ後に、皆揃って数軒隣の小屋に移動した。5人の為に開いてくれるという歓迎パーティーの為だ。会場に行ってみると、日中見かけたよりも、かなり大勢の村人がいた。そう、仕事に出ていた男達が加わっていたのだ。

小さなステージには、奥に楽器を弾くらしい男性が数人、前方に、首輪の女の子が5人ほど立っていた。どうやら民族舞踊ショーでもてなしてくれるらしい。

やがて曲の演奏が始まり、首長娘たちが曲に合わせて踊り出した。踊りといっても、エンターテイメント的なものとは程遠い、素朴で動きの少ない踊りだった。が、ときおり光を反射させながら、「シャリーン、シャリーン」と音を奏でる、彼女達の美しい首輪には、そんな穏やかな動きがとても相応しく見えた。

村に着いた時点では正直、彼女達の首の長さを、奇怪な容姿として捉えていたが、この頃には、もはやそれは美しさの部類に入る容姿として、清彦は感じ始めていた。華奢な撫肩を裾野のようにして上方に巻き上がっていく螺旋状の首輪に包まれ、真っすぐに延びた首。首の長さというものが初めて、女性の美しさという範疇に取り込まれていくようだった。

ささやかなショーが終わると、ジーンが「首長族」に関しての様々な話を聞かせてくれた。この村では男は風の化身、女は龍の化身とされている事、その為に龍の化身とされる女性のみが、龍に見立てられて長い首輪を嵌めるという文化が定着した事、彼らが難民であり、また周辺の部族が忍び込み盗難に遭うケースもある事、などなど。

そう、ここは、「難民キャンプ」なのだ。

只、彼らが普通の難民と違うのは、「首長族」としての特異な容姿や文化、風習が観光的な収入源になっているという点であり、周辺の「普通」の難民達は、山で伐った木を牧にして遠い町まで売りに行く、というような事くらいしか収入源が無いのだ。

そういえば、昼間、手作りの刺繍品等の土産物を置いていた小屋に、ユニセフの募金箱が設置されていた。また他の村の少年達が牧を目一杯背負い込んで村の中を通り過ぎていく光景も幾度となく清彦は目にした。観光客とはしゃぐこの村の子供達を横目に、時折、彼らが睨むような視線を向けていたのにも、そういった背景が影響していたのかも知れない。

観光客といえば、日中、自分達の他にも同様のツアー参加者のようなグループを目撃した。

実際のところ、「日帰り」であれば、ジーン以外のガイトでも入村を許可されているらしい。が、宿泊となると、やはり許可されているのはジーン只一人、との事だった。この辺の事情を清彦はジーンに聞いてみた。

「なぜジーンだけなの?」

「信頼関係だよ。」

短い答えだった。

そのジーンにしても、首長族と今のような関係を築くのは容易ではなかったようだ。そもそも周辺の部族よる盗難などの被害例もあるのだから、村人以外を泊めたがるわけがない。

ガイドとして村人に何をしてあげられるか、長年に渡り様々な心配りと誠意を見せてきた結果としての信頼関係なのだろう。村に来てから、ジーンと村人とのやり取りを幾度となく垣間見たが、ジーンが村人をとても大切にしている事、また村人にとってジーンが特別な存在である事は、清彦にも充分感じ取れた。

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