管理人の独創小説 『首長族の宴』

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(10)首長族(Long Neck Karen)

翌朝、定刻通りにホテルに迎えに来たジーンの4WDには、参加者である男性3人も同乗していた。軽く挨拶を交わすと、皆日本人である事がわかり、 内心ほっとした。
想像が付かないツアーだけに、周りが日本人というのは心強かったし、清彦としては、浩之以外の相手と久しぶりに日本語で話せたのが、正直嬉しくもあった。

添乗するのは、運転手兼ガイドであるジーンのみで、今里兄弟を含め、全6人での出発だ。走り出して間もなく薬局の前に車を止めると、 ジーンが皆に向かって言った。

「みんな、ここで痒み止めの薬を買った方がいい。外国の薬だと効かない場合もあるから。」

キンカンの効果を信用していないわけではなかったが、ここは素直にガイドのアドバイス通り、清彦は勧められた薬を買ってみた。

再度、車に乗り込み、国境付近の村へ向かって北上した。やがて道路は未舗装の路面に変わり、砂埃を巻き上げながら車は進んでいった。途中、 いくつか小さな村を通り過ぎたが、それ以外の区間はこれと言って印象に残る景色もなく、みな漠然と外を眺めていた。

2時間は過ぎたであろうか、小さな山間部の村に着いた辺りで、簡易な関所のようなゲートを通った。
ここからが難民エリアなのだろうか。
事前のジーンの説明によると、首長族の住む村は国境付近の難民エリアで、彼らもその難民の一部族との事だった。只、眠気の余り、 そのゲートが何なのかジーンに質問する事もなく、清彦はまた眠りに落ちて行った。

次に清彦が目を覚ました時には、また先程と同じようなゲートが前方に見えた。ジーンが、他に起きている誰かに説明している英語の内容を聞いて、 このすぐ先が首長族の村らしい事がわかった。

程なくして車が止まり、ジーンからみな降りるよう指示があった。村に着いたのだ。

車から降り立って見上げた景色は、「乾いた山間地帯」とでも言おうか、木々の「緑」よりも、地面と山肌の「ベージュ」の方が、 視界の中に占める比率が断然多いように見えた。

「タイっぽくないなぁ。あまり雨が降らないのかなぁ。」 
清彦の最初の印象だ。

ジーンを先頭に村の方に歩き始めると、やがて両脇が緑の木々に囲まれた、やや「タイっぽい」道に入った。更に進むと、前方左手に、 何やら高床式住居のような小さな小屋がある。

ジーンに尋ねると、村の「よろずや」のような存在で日用品等を揃えているらしい。前面に壁の無いその小屋は、お茶の間劇場のようでもあり、 中にいる、目と歯だけが妙に白いおばちゃんもまたイイ味を出していた。

そこから更に数十メートル行くと、周りの視界が急に開けた。

首長族の村だ。

小高い丘に囲まれた、すり鉢状のスタジアムのような空間に、先程見たような高床式の建物が点在していた。見た事のない空間だった。 村として、これ程一体感のある空間構成は珍しいのではないだろうか。建物の配置等を見ても、何処で誰が何をしているか一目瞭然、 といった造りになっているようだった。スタジアムで言えばフィールドにあたる中央の広い平地部には、 ちょっとした土産物屋のような小屋がいくつかポツンとあるのみで、その広場を取り巻く斜面に住居が散らばっている。

まるで、ひとつの世界が、この空間の中だけで完結しているかのようだった。

と、ひと通り周りを見回した後で、
「ところで首長族はどこ?」と、
今度は人物に焦点を当て、再度周囲を見回してみた。

いた

広場中央の小屋で、数人の「首の長い」子供が遊んでいるのが見えた。前面の壁が無いので、小屋と言うより、東屋、 もしくは小ステージといった方が正解かもしれない。

金属性の螺旋状リングを巻いた彼女達の首は確かに長かった。少なくとも長く見えた。

気が付くと各々の興味の向くままに散らばってしまっていた参加者一行に、ジーンが手を叩いて集合の合図を送った。

広場に程近い、ある家の前に集合し、その家の住人家族を紹介された。若い夫婦と、二人の小学生くらいの娘、幼稚園児くらいの息子の五人家族だった。 ジーンの説明では、この家族が通常は居間として使っている部屋を参加者一行に提供してくれ、家族5人は、台所で寝る事になっているらしい。

「えっ、首長族と一緒の家に泊まるわけ?」 

浩之はおどけた感じで言った。

どうせ、ツアー参加者専用に造った場違いな建物にでも泊まるんだろう、と思っていた浩之にとっては、予想外の朗報だったようだ。

ぞろぞろと階段を上って高床の居間に荷物を置いた一行は、みな一段と気分が高まっている様子だった。

「おぉ、ここで寝るんだぁ。イイ感じじゃないっすかぁ!」1人が嬉しそうに言った。

小一時間ばかし自由時間が与えられ、今度はみんなで一緒に村の中を散策してみた。外には鶏が放し飼いされており、丘の斜面も含め、 そこら中を闊歩していた。村には、ちびっこから老婆に至るまで、様々な年齢層の首の長~い女性がいたが、男性は日中、働きに出ているようで、 ほとんど見かける事はなかった。

そうこうしている間に、再度、シーンに呼び集められた。子供達を連れて、川に遊びに行く、という当初の予定だ。 既にその場に集まって来た子供達の数は10人以上いた。

川とは言っても決して近くはない。車で15分程度というから、子供が歩いて行くのは容易ではないはずだ。シーンはそんな子供達を喜ばせようと、 今回のようなツアーに絡めて、水遊びをさせてあげる機会を作っているのだった。

先頭を歩くジーンの後にゾロゾロと付いていく最中、ツアー参加者同士で言葉を交わした。

「この人数だから、バスか何かに乗り換えて行くんですかね?」

「うーん、そんなデカイ車無さそうだし、何台かで分乗していくとか。」

「でも、シーンの他に運転できそうなのって、オレ達くらいですよね。」

「え、まさかオレ達のうちの誰かが運転するわけ?」

「いくら何でもそれは無いでしょう。一応、金払ってる客ですよぉ。」

などと物議を醸し出している間に、ジーンは往路で乗ってきた4WDの前で足を止めた。

「じゃぁ、みんな行くよ!まずは5人から乗って!」

5人からって事は他にも乗るのか?と清彦は思った。

その通りだった。

来た時と同じ配置で一行が座った後、次から次へとちびっこ達が乗ってきた。

どこに?

膝の上に、である。

見る見るうちに車内はギュウギュウになり、子供達で隙間なく「充填」された。

「マジかよ?全員乗れるわけねぇよ!」 

誰かが叫ぶように言った。

気付くと窓の外がほとんど見えなくなっていた。

そう、車の外側にも子供達がへばり付き、挙句の果てに屋根の上に乗る子までいたのだ。

驚く一行を横目に、何事もなかったかのような表情で運転席に乗り込んだシーンが言った。

「Let's go!」

車がジンワリと動き出した。さすがにかなり重そうだ。

それにしても、15分とはいえ、あんな悪路をこの状態で走ったら、途中で何人か落ちてるんじゃないか、と清彦は真剣に思った。

そんな事を気遣ってか否か、ジーンは気持ち、スピードを抑えてはいるようだった。また子供達にしても手慣れたものというか、結局、目的地の川まで、 1人の脱落者も出さすに到着した。車から降りるや否や、蜘蛛の子を散らす様に川へ向かった子供達の人数を、昔よくバイトでやった交通量調査よろしく、 清彦が正確に数えてみた結果、その数はなんと15人だった。

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